「物を作るという事」

 物を作るという事、それは凄く大変な労力を必要とします。個人的に使う物を作るのなら気楽に取り組む事も出来るけど、多くのユーザーの方々に買っていただくとなると、作る側としてはかなり慎重になります。しかし、昨今の釣具業界で発表されるタックルを見ていると、どうも納得できない物が多すぎると思いませんか?

 人それぞれのスタイルがあるのだから、様々なタイプの物が出来てくるのは当たり前だと思います。でも、何を目的として開発されたのかが分からない時が多々あります。以前のように、小回りのきくメーカーが極端に少なくなったように感じているのは、決してボクだけではないと思います。なんと言うか、メーカーの売りたい物を押しつけるってのが、最近の風潮のように感じます。


日本全国共通??

 メーカーが大きくなりすぎたのが理由かもしれませんが、日本全国共通で100%の力を発揮する品物って、現実には無いんじゃないかと思います。もちろん使えない事は無いのですが、地域ごとの特色を全国区で押しつけようとしているように感じています。あまり極端な話しはできませんが、地域性を突出させた特殊な商品は、決して全国区に広げようとする商品ではないと思います。全国的に平均して合格を出せる商品が存在してこそ、地域の特色を出した商品が生きるのだと思います。

 多くの一般アングラーは、全国各地の釣りを知りません。だから同じ土俵で話そうとしたら、会話が成り立たなくなるケースがあります。例えば極端に魚影の濃い場所でしか釣らない人が開発をすると、さほど考えられないで作られる事もあり得ます。そのような場合に多いのが、掛けるまでのプロセスよりも取り込むことのプロセスを考える商品です。ロッドがその良い例ですね。魚影が濃ければ掛けるまでの難易度は低く、逆に魚影が薄ければ掛けるまでの過程が重要になります。

 問題はここです。最近の開発に携わる人達は、このあたりの一般アングラーの実態を無視しているように思えるのです。誰もが魚影の濃い場所で釣りする事なんて出来るわけ無いですよね。釣れない中でも、より出会いの確率を高めるために、様々なチャレンジを繰り返すからこそ、ここ数年の発展があったんだと思います。ところが今回の釣り博を見ても、出し尽くされたと感じられた方も多かったのでは?


本当に出尽くしたのか?

 
本当にそうでしょうか? テスター達も有名になるにつれ、イメージを作り出すために釣りやすいフィールドの大物へとはしります。ユーザーもそれを盛り上げちゃいますし、たしかにインパクトは強いですもんね。でも結果は分かりますよね。そこそこ考えても、妥協点が低くなる危険が出てくるわけです。観点がずれてくる危険性があるんです。もちろん全てがそうだとは言い切りませんが、少なくともボクはそのようなメーカーが増えたと感じました。ブームが去るのはメーカー側にも考えるべき点があると思います。何故そのタックルが必要なのか、場所によってどんな釣り方をするからこの商品が必要なのか、だからこういった商品を作ったんだ…と。これが見えてこなくなってきたら、そのメーカーは要注意だと思います。

 ボク自身もメーカーの開発に携わる人間として、凄く残念だと思います。ボクなどの力が微力過ぎて役に立たない時だってあります。でも、アイルシリーズを開発担当者と立ち上げてきた自信は誰にも負けないつもりです。最初から最後の味付けまで大きな苦労をして、ようやく漕ぎつけた商品化。そこから皆さんに浸透させたいがための努力。誰にも負けないつもりで頑張ってきました。でも、その苦労って楽しいんですよ。その頃の気持ちを大切に、ボク自身これからも頑張り続けたいと思います。本来ボクの立場上、このような話しはするべきで無い事は分かってます。でも、BBSにもあったような書き込みが出ると言う事は、ユーザーの目から見てもメーカーの取っている行動に対して、多くの方々がある種の不信感を抱いているのは間違いないと感じました。だから、敢えて一般ユーザーが感じているんじゃないかと思える事を、かなり覚悟してここに書いてみました。

開発を始めた頃の新鮮な気持ちを忘れない!

 これからのボクに出来る事。それは開発を始めた頃の新鮮な気持ちを忘れない事、そしてユーザーの立場で物を考え続けることです。もちろんこれは、ユーザーに媚びることとは違います。ボクはアングラーとしては皆さんと同じ視線で釣りをしたいし、開発をする時には全国レベルの観点で考えたい。そして商品化するときには、全国的にそこそこの合格点(そこそこに使える)なのか、地域や使い方に特色を持たせた物なのかをハッキリとさせておきたい。地域性の強い物をとか、これがこれからの流行です…みたいな作り方は絶対にしたくないんです。