ライトロッドの存在価値
そもそもソルト用ライトロッドには、どんな性能が求められているのだろう。大手メーカーから発売されているソルト用ロッドは、ボクの感覚で判断するとヘビーなものばかり。一部にはライトな感覚を受けるものがあるけれど、それには単純な柔らかさを感じてしまう。人それぞれ感覚の違いはあるのが当然だけど、少なくともライトターゲットと呼ばれている全ての魚種と釣り方を、同じロッドで対応できるものなど存在しないと思う。たとえばムラソイをミノーイングなどで狙うロッドと、アジやメバルをワームで狙うロッドとでは、全てにおいて性格の異なるものが要求される。ところが現実はどうだろう。市販されているものはひとくくりのソルト用ライトゲームロッドだ。これが何を意味し、そして何を求めて開発されたロッドなのかが分からない。
ボクの考えるライトロッドとは、数多いターゲットの全てに対応できるものではない。だってライトゲーム全てに対応できるロッドなんか存在しないから。作ることもできないと思う。もしできると宣言して作られていたとすれば、それは楽しさを感じられないものになっていると思う。つまりオーバーパワーのロッドによって、「大は小を兼ねる」的な発想で創られたロッドに仕上がってしまっているはずだ。もちろん真剣にライトロッドを考えていないのであれば、細分化を考えずに妥協しているのだろう。それはコストメリットや販売量を考えたら当たり前のことだろう。商売で考えていたら、絶対にそれぞれの専用ロッドなんてやってられない。細分化しても赤字にならないことを考えなければ、メーカーとしてやる価値はないからだ。少なくともライトアングラーを自負している方々なら、1尾ずつを大切に遊ぶ、小物なりの楽しみ方を知っていると思う。大物にこだわらない楽しみ方を知っているアングラーにこそ、ライトターゲット専用ロッドを使ってもらいたい。
トゥイッチング性能
このあたりが、ボクが手がけているロッドと、大手メーカーが作っているロッドの考え方の違いだと思って欲しい。そこを原点に、自分にどんなやり方ができるのかを改めて考え直してみた。市場で盛り上がっているライトゲームのターゲットは何か。そして実際にタックルとして欲しがられているジャンルはどんなものなのか。それらを調査していくと、地域差があることも分かってきた。地域によって中心となり得るライトターゲットの違い、そしてどんな釣り方が好まれているのかなどだ。インターネットで色々なエリアの方々とお話をしているうちに、そういった部分が見えるようになってきた。たとえば東京湾ならメバルを超ライトリグで狙ったり、房総や伊豆だったらメッキをトゥイッチングで楽しむといったことが一般的だ。最近ではアジをワームで狙う楽しさも知られ始めて、盛り上がりは急成長している。
紹介したのはひとつの例だけど、これらを考えていくとひとつの方向性が見えてきた。まず個人的には絶対に欠かせないのが、メッキをトゥイッチャーで狙うロッドだ。これは以前発売していたリトルトゥイッチャー(近々再販を予定して作業進行中!)を使い、関東であれば伊豆半島や房総半島でのトゥイッチャーやミノーによるメッキを楽しむために必要だ。ここで考えたのが、ロッドのベンディング特性だ。トゥイッチングではロッドをハタクことによって、ルアーを左右にダートさせて使う。このときハードすぎるロッドでは、ルアーの移動量が大きくなりすぎる。メッキに関して言えば、高速で移動させることが目的ではなく、常にルアーを動かし続けることが重要だ。ピンスポットにタイトな居着きをしているメッキにとって、トゥイッチでストロークが大きくなりすぎることは致命的だ。
ベンディングカーブとパワー特性
そうかといって、ティップだけを柔らかくして対応しているロッドも市販されているようだけれど、これだとバットパワーが大きくなりすぎる。その弊害がアングラー自身の疲れ、そして正確なコントロールができなくなることだ。ボクの感覚としては、ルアーの動きはロッドティップで吸収するのではなく、あくまでもグリップを通じて自分の手に伝わってくることが必要不可欠と考えている。そのためには硬すぎないロッドが必要になる。硬すぎないロッドには、同時にターゲットに対するオーバースペックではない・・・という意味も含めて考える必要がある。そして今回のロッド作りで最も難しかったのが、この適正なパワーをどこに持っていくか、そしてトゥイッチをやりやすくするためのベンディングカーブとパワー特性をいかにマッチさせるかにかかっていた。
そしてようやくその答えが見えた。何度もブランクの作り直しをやってもらいながら、ようやくそれを両立できるとボクが納得したブランクが仕上がってきた。ボクの理想とするトゥイッチ操作性、そして関東の一般的なメッキサイズである、15〜25cm級をスリリングかつ安心してファイトを楽しめるバランスロッドが誕生した。ロッドの長さも、ボクが各地を釣り歩いてみた結果、疲れにくく釣りやすい長さということで、5.9ftという長さに落ち着いた。遠投するのが目的ではないし、特大のムラソイを狙うロッドでもない。メッキのトゥイッチングに最も適しているとボク自身が考えるモノが形になった。
弾かれにくいバランス
さて、そうするとトゥイッチング以外に必要な要素はどうするか。当然そういった意見が出てくるだろう。メッキだけの市場では、ライトロッドの存在自体が難しすぎる。そこで引き合いに出されるのが、メバルやアジをワームで狙う釣り方だ。当初はロッドの長さでフッキング性能(弾かれにくい性能)を考えていた。しかしどうやっても、これを確実なものにするには無理が大きすぎた。所詮トゥイッチングロッドとワーミングで吸い込ませて釣るためのロッドは、兼用する1本ではなし得ることができない。しかしそれではボク自身の考えるライトロッドとは、大きくイメージがかけ離れてしまう。そこで考え出したのが、ロッドティップを別に準備する方法だ。
ひと言で表現するのは簡単だけど、バットを兼用させるという考えであるから、両方の性能が納得できるものでなければ意味がない。前記のトゥイッチング用にセッティングした時点で、このマッチング特性を意識していたことは言うまでもない。そしてワームを使うときに必要とされている性能とは、流行のティップがペニャペニャのものではない。ボクの理想とするワームロッドは、メバルやアジの吸い込みをティップでごまかす方式ではなく、そのアタリを確実に手元で感じ取れる性能だ。つまり極端にティップだけを柔らかくしなくても、ロッド全体のベンディングと長さを利用したセッティングで、吸い込む捕食でも弾かれにくくすることができると信じてのものだ。
楽しさを共感したいロッド
ボクは美しくないベンディングのロッドは好まない。手元までスムーズに、負荷に応じて曲がってくれるのがボクの理想だ。前の方でも書いたけど、メッキなら15〜25cm、そしてメバルやアジも同じサイズを中心に考えて、そのターゲットたちにマッチした、最も美しいベンディングを意識している。そしてそのパワー特性が、ちょっとライトな繊細さを感じながらも、安心してやり取りできる性能に仕上げたい。そしてそれを満足するティップも仕上がった。トゥイッチ用とワーム用の兼用は、ティップをチェンジすることで実現した。実際のフィールドでは、ハードルアーを使うならハードルアーだけ、ソフトルアーを使うならソフトルアーだけ、そういったポイントやターゲットを選定しての釣行が多い。ボクもそんなパターンで楽しんでいる。だからこそ成り立つ方式だと思っている。
ハードティップだけでもなく、ソフトティップだけでもない。両方が揃ってこそ、ボクの考える1本のライトロッドが成立する。実際に使ってみれば、ティップを替えただけで「こんなにロッドの性格が変貌するのもか?!」と驚かれると思う。このロッドを持っていれば、ボクがメインで楽しんでいるメッキ、メバル、カマスのミノーイング、そしてメバル、アジのワーミングなどが楽しめるはず。ボクの釣り方と楽しみ方に共感をしていただいているアングラーの皆さんであれば、手元に置いておきたいロッドに仕上がったと自負しています。よりいっそうライトゲームを楽しく感じたいのであれば、末永く愛用したいと思えるロッド作りを目指しました。ここまでくるのに時間は掛かったけど、やっぱりチャレンジして良かったな・・・と思える。あとはこの「リトルトゥイッチ LT-590H/S 」を使って、たくさんの思い出を作り続けていくだけです。