「基本を見直そう」

 それは仲間の情報から始まった。とあるシーバスで有名なポイントでのできごとだ。辺り一面が、マヅメに物凄いボイルが起きるという。どこにでもよくあるような話で、それ以外の時間帯では静かになっているという。ところがたくさんのボイルがあるのに、思い通りにヒットしないという。状況を詳しく聞いてみると、いくつかの気になる点が出てきた。本当にマヅメだからボイルが凄いのか、しかもその時間帯にしか釣れないのかという疑問だ。

時合いと潮時の真実

 まずはマヅメという時間帯がパーフェクトな条件であったのか。これに関しては、詳しくリサーチしてみると満潮近辺の潮止まり前後に集中していたようであった。これを確認するためには、マヅメが満潮ではなく、しかもそれ以降に満潮がくるような条件の日に調査すればいい。これはあっけなく答えが出た。マヅメはたしかに実績の高い時間帯ではあるけど、必ずしもそれだけがベストの時間ではなかった。この場所では、マヅメのボイルが終わってしまうと、それまでの光景がウソであったかのように静まり返ってしまう。それで終わってしまったと思い込んでしまうと、そこでゲームセットになってしまう。

 ところが実際には、その後の満潮近くなった時間帯に、再びボイルの嵐が起きた。つまりマヅメだけが時合いではなかったのだ。ボイルがあるとそれに目を向けられてしまうため、それが収まってしまうといなくなって捕食しないと思い込まされてしまう。たしかにボイルはアングラーの目を惑わせるけど、そこからいなくなるとは限らないのである。今回のように時合いとは何かを考えてみると、本来の姿を見直すことも重要なことだと感じさせられるだろう。

風の影響

 更に面白いことに、ベイトフィッシュに対してボイルしているため、そのベイトフィッシュの集まり具合や浮き具合も関係してくるはずだ。つまりどんな時でも出っ放しのボイルならいざ知らず、実際には出始めたらしばらく続き、収まるとまったく姿が見えなくなる。しかもボラはたくさんいるのに、それを捕食している様子がなくなるのだ。

 そこで気になっていたのが、風の向きだ。よく風の表側には、寄せられたベイトフィッシュが集まりやすく、そこにフィッシュイーターが集まってくるという話を聞いたことがあるだろう。つまりポイントの向きによっては、風の向きも何らかの要素を持っていると考えられる。今回の調査を例にとってみると、偶然かどうかは分からないが北からの風が明らかに良かった。これはあくまでもボイルの出方の話だ。北風が吹き始めるとボイルが最高潮になり、収まると縮小してしまうのだ。つまり風向きも一種の時合いとして考えれば、まだまだ効率的な攻め方もできるのではないだろうか。

ボイルに対する基本

 ここで捕食しているボラのサイズを調べてみた。群れで逃げ惑っているボラのサイズが10cmくらい。実際に捕食されていたボラも10cmくらい。つまり基本はマッチザベイトの考え方で良さそうだ。そこで問題になるのが、どうやってたくさんいるボラの群れの中から、シーバスへアピールさせるかだ。実際に捕食しているボラのサイズを見ると、大小様々なのに、同じ大きさのボラしか捕食していない。つまり大きなルアーや小さなルアーを使っても、それほどの特別な効果は望めないことが分かる。だから使うルアーのサイズは、9〜10cmくらいが理想だと判断してみた。

 この時にルアー形状を決める方法として、ボクはレンジを重要視する。トップでまったく捕食しておらず、水面直下での捕食の場合(この時はそうだった)、当然トップには出にくい。実際に水面上のルアーには反応しなかった。そして逆に潜らせてみると、そこにはボラも泳いでいない。下にこぼれているベイトフィッシュの図式は、このような状況でも当てはまらないケースがある。今回はたまたまそうだったのかも知れないが、このレンジを外してしまうと、思ったほどの反応が得られず、ボイルがあっても魚は釣れないと誤認してしまうのだ。ボイルがあるのにトップで釣れないからと諦めるのが、こういったパターンだろう。

 ボディボリュームに関しては、こういった捕食に対する活性が高まっていれば、ボクの場合スリムは一切使用しない。つまりいかにアピールさせて、シーバスに魅力あるエサとして見せるかにかかっているので、ファット系のボディを選ぶことにしている。特にシャローに集まって捕食しているシーバスは、ナーバスになっている状況でなければ、ファット系の方が勝負は早いと信じている。まあファット系といっても、最近流行スリムではない従来のタイプと思っていただければいい。

 それからリーリングスピードも、それなりに重要な役割を持っている。暗い時間帯にはスローが基本と言うけれど、こういった状況におけるベイトフィッシュの動きとしては、かならずしもスローではない。幸せそうに漂っているような場所でなければ、シーバスに追われるボラたちも急いで必死に逃げ惑うのだ。その中でもよりアピールさせるためには、更にイレギュラーなアクションを使いたい。いわゆるリアクションバイトだ。スローなリーリングではまったく反応しなかったが、適度な速さの中にトゥイッチを織り交ぜて、更に食わせの間を時々与えることによって、シーバスを追わせてバイトさせるパターンが効果的であるケースは多い。ちなみにこの時のリーリングスピードは、ハンドル1回転を1秒以上のスピードで回さねば反応はなかった。

シーバスにもナブラ撃ちが重要

 もうひとつ状況から判断した話をしておこう。まずは捕食したがっているのは、どのエリアに集中しているかだ。一見乱れ撃ちしているようなボイルでも、ベイトフィッシュを散らかしているだけなのか、それとも完全に捕食しているのかは、じっくりと観察していれば見えるはず。ルアーをキャストせずに一定のボイルが出るのを観察することは、ボイルの中からシーバスを引きずり出すのに重要だ。

 今回のケースでは、水深のある位置でも同じようにボイルは出ているが、実際に捕食していたのは岸際のシャローエリアだけだった。しかも一定のボイルが同じ場所で起きており、捕食したら再び岸寄りの方向へ戻って定位しているように見えた。つまりシーバスが捕食をしたい場所はあらかじめ決まっていて、そこへ理想的なコースで泳いできたベイトフィッシュを、狙いすまして捕食しているのだ。あまりにもたくさんのボイルに惑わされると、こういった肝心な部分を見逃すことになる。

 更によく観察すると、この飛び出してくる方向と反転する向きが見えてくる。それさえ見えるようになれば、青物のナブラ撃ちと同様だ。シーバスの向かっている方向へ、一定時間でボイルしている場所へとルアーを送り込んでやればいい。前記のいくつかの条件を満たしてやれば、結果は意外なほどあっさりと出るはずだ。ようはこれだけの状況チェックを、いかに短時間で済ませられるかだと思う。当然経験も必要なんだけど、常に基本へ戻って考えてみる姿勢こそが、より安定した釣果を出すための秘訣なのではないかと思う。

 最後になるけど、今回の調査で最も有効だったのは、ラトル音だったようだ。偶然使ってみたルアーがガラガラと音を立てていたのだが、同じように攻めていて反応がなかったのに、いきなりシーバスの反応が良くなってしまった。嵐のようなボイルを攻める時には、やっぱりいかにしてアピールさせるかが重要なのだろう。いずれにしても、悩んだときには原点に戻り、基本と思われる確認を試してみるのが上達の近道かな。