Light Tackle Lure World 
●Tale-4 ボクを友達にしてくれ〜い!
  ひょうきん者のアナピーたちは、釣り人と楽しく遊ぶために苦労していた・・・。

 ボクはアナハゼのアナピー。ボクの仲間たちはいろんな場所に棲んでいるんだよ。釣りをする人も、ボクたちを見かけたことがあるよね。でもね、みんなボクたちのことを、邪魔者扱いするんだよね。ボクたちって、そんなに嫌われちゃう存在なのかな。ちょっと悲しくなっちゃう。ちょっと前にも、係留してある船のロープに乗っかって休んでいたら、ルアーを追っかけているメッキ君を見かけたんだ。メッキ君はそのルアーに飛びついて、あっさり釣られちゃってた。でも釣っていた人は、ほんとに嬉しそうで優しく逃がしてくれていた。ボクも喜んでもらいたくて、ひょうきんに動きながらロープの上からそのルアーに飛びついたんだ。簡単に釣られちゃったんだけど、釣っていた人に、「な〜んだ〜、アナハゼかよ!」って言われながら、ポイッって投げ捨てられちゃった。何でこんなに扱いが違うのかなぁ?

 そういえば友達のアナッキーも言ってたなぁ。石積み堤防の積み上げられた石の間へ沈んできたワームに、近所のカサゴ君が飛びついて釣られていたらしい。それを近くで見ていたアナッキーも、釣り人に遊んでもらいたくてワームを咥えたらしい。そしたらやっぱり、「こんな所でアナハゼなんか釣れるなよなぁ〜!」って怒られたって。ポイッって投げ捨てられたらしい。だってカサゴ君が釣られて釣り人が嬉しそうだったから・・・。彼だってボクと同じ経験をしてるんだよね。

 アナハゼって、どうしてこんなに嫌がられちゃうのかなぁ。たしかにボクたちって、見た目はアイナメ君に似てるけど、口が大きくて上品とは言えないよ。体だってちょっとヌメヌメしてるけど、そんなのボクのせいじゃないや〜い。まあ唯一の救いは、釣られても持ち帰られることがないから、食べられることはないってことかな。だから安心してルアーに飛びついたりして、釣り人と遊ぶのも楽しみになっているんだけどね。でもほとんどの人が、せっかく相手をしてあげたボクたちを雑に扱うんだよ。いくらひょうきんで好奇心が旺盛なボクたちだって、相手をするのがイヤになっちゃうよ。

「ねえねえ、アナッキー。ここっていじめっ子の釣り人ばかりだから、みんながいる場所に帰らない?」

「そうだなぁ。ここにくる釣り人ときたら、ほんとにオレたちを雑に扱うよな。こないだ投げ捨てられたときなんか、あやうく石にぶつかるところだったよ」

「ひゃぁ〜、それは怖いね。石になんかぶつかっちゃったら気絶しちゃうかも。ヘタすりゃ死んじゃうよね。なんで人間ってそんなことするのかなぁ〜」

「まったくだよ。オレなんか釣り人を楽しませてあげようと思って、わざわざルアーに掛かってやってるのに。人間にはそんな気持ちが分かってもらえないんだろうなぁ〜」

 アナピーとアナッキーは、みんながたくさん棲んでいる町に帰ることにした。岸壁に沿って少しずつ移動しながら、時々ルアーを投げてくる釣り人がいたけど、それはことごとく無視してやった。もう釣られて海に投げつけられるのはこりごりだ。釣り人も普段は簡単に釣られちゃうアナハゼに無視されて、プライドを傷つけられたと思っているみたい。しゃべっている言葉がホントに頭にきちゃったよ。

「なんだよ、こいつは。アナハゼのくせにルアーから逃げやがる!」

「え〜っ?おまえアナハゼなんかも釣れねぇのかよ。ヘタだなぁ〜」

「いいよ、じゃあおまえがやってみろよ!」

「よし、すぐに釣っちゃうからな」

 岸壁にいた2人の釣り人は、最初はミノーを投げてきたけど、ボクたちが無視しているとワームを投げてきた。何を投げてきたって同じ。アナピーとアナッキーは、今は機嫌が悪いのだから。2人の釣り人はそんなことも知らず、一生懸命になっていろんなルアーを投げ込んでくる。

「釣れないじゃないかよぉ〜。おまえだってヘタじゃん!」

「おかしいなぁ〜、こいつら人間をなめてるよな」

 アナピーたちはあまりにも人間の身勝手な言葉に、ついにキレかけていた。

「アナッキー、ちょっとからかってやろうぜ。頭にきたよ!」

「そうだな。興味あるふりしてからかっちゃおうか」

 アナピーとアナッキーは、次に沈んできたワームに向かって、興味があるふりをして近づいていった。

「おっ、やっぱりオレってうまいかも!追ってきたじゃん!」

「ど〜せ釣れないよ」

「ほらほら!おっ、喰いそう!あ〜、戻っていった。あっ、また追っかけてきた。あ〜、また戻っていっちゃったよ」

 アナピーとアナッキーには、その釣り人の反応がひどくこっけいに思えた。自分たちにはそのルアーに飛びつく気なんかまったくない。ただからかってやってるだけなのにって。そんなことを知らない釣り人は、また交代して別のルアーを投げてきた。

「やっぱり男なら硬派のハードルアーだよ!」

「へん!釣れるもんなら釣ってみな!」

 2人の釣り人は、だんだんと口が悪くなっていく。もうかれこれ30分は経っただろうか。ボクたちもいい加減に飽きてきたから、そろそろからかうのをやめることにした。

「アナッキー。そろそろみんなの場所に帰ろうよ。こんなの相手にしたってつまんない」

「そうだな、戻ろうか、アナピー」

 アナピーとアナッキーは、最後にもう1度だけルアーに反応してあげて、せえので「アッカンベ〜」と釣り人に向かってポーズをして、釣り人から見えない深い場所へと潜っていった。

「あっ、あいつら逃げちゃったよ。おまえがヘタだからだぞ〜」

「なに言ってんだよ。おまえが逃がしたんだろう!?」

 遠くの方から聞こえてくる釣り人の会話を耳にしながら、アナピーとアナッキーは少しずつ浅い場所に戻ってきた。もうここまでくれば、さっきの釣り人には気づかれないだろうと思った。どんどん泳いでいき、ようやくみんなが棲んでいるゴロタの町に到着だ。ここは波の静かな湾の中にあって、水深も50cmくらいしかない。ちょっと岸から離れると徐々に深くなっていて、ダラダラと20mくらいにまでなっている。寒い冬は深い場所で過ごしているんだけど、春や秋にはこの浅い場所がボクたちの町になっているんだ。近くにはカサゴ君たちも棲んでいるし、砂泥底の場所にはワニゴチ君もいる。深い場所にはクロダイ君も棲んでいて、ホントに環境がいいんだよ。ボクはこの町が大好きさ。

「みんなぁ〜、ただいまぁ〜」

「おっ、おまえたちどこまで遊びに行ってたんだよ」

 アナピーとアナッキーを迎えてくれたのは、近所に棲むアナマサ兄さんだった。朝から何も言わずにいなくなっていたから、みんなで心配していたらしい。

「うん、ちょっと向こうの港まで行ってたんだよ。釣り人をからかってきた」

「面白かったよ。今までは釣られても喜んでもらえればいいと思っていたけど、最近では投げ捨てられちゃうじゃん。それって悲しいから」

「そうなんだよ。ルアーを咥えるふりだけして、何度も釣り人をからかっちゃった。ムキになってルアーを投げてきてたよ。簡単に釣られちゃうよりも、この方が遊びとしては面白いね」

「そんなことやって遊んできたのかよ。まったく・・・こいつらは!」

 アナマサ兄さんは、さすがにあきれてしまい、それ以上は何も言わなかった。そして夕暮れ時になり、辺りは真っ暗な闇に包まれていった。静寂が訪れて、アナピーたちも明日の遊びを考えながら、いつしかスヤスヤと岩陰で眠りについていた。そして次の日の朝がきた。人間の世界では、今日は日曜日。いつもこの辺りには、クロダイを狙う釣り人が集まってくる。でもボクたちがここにいることはあまり知られてない。というよりも、相手にされてないというのが正解かもしれない。ところが今日は違った。ボクたちにとっても、初めての出来事が起こったんだ。そう、2人の釣り人が、ボクたちの町にやってきた。水辺は小さな石がゴロゴロしている。そこに降りてきた釣り人は、ボクたちの町を眺めながらこう言った。

「ここって面白そうだよな。水深が浅いし、澄んでいてよく見える」

「そうだね。小さな石が海底にも転がっているから、そこにアナハゼが隠れていそうだよね」

 この釣り人たちの会話を聞いて、アナピーたちはビックリ仰天。今まで聞いたことのないような会話だ。たしかに「そこにアナハゼが隠れていそうだよね」という言葉が聞こえたからだ。今までここにきた人は、みんなクロダイ君やカサゴ君たちを狙っている。でもアナハゼたちを目的に釣りをしにくる人なんかいなかった。あまりにも突然の予想もしなかった言葉だけに、アナハゼたちは驚きながらも嬉しさを隠せなかった。

「ねぇ、みんなぁ〜。この人たちだったら、ボクたちも遊び相手になって楽しいかもしれないよね。今までボクたちに会いにくる釣り人なんかいなかったじゃない」

 アナピーは、突然の訪問者を喜んで受け入れたかった。まわりのみんなたちも同じ意見で、せっかくだから久々に盛り上がっちゃおうということになった。その釣り人たちは、いかにもライトルアーを楽しんでいるってのがにじみ出ていて、準備をしながらポイントを探して盛り上がっている。暖かな陽射しの下で、のんびりとこの時間を過ごそうというのがよく分かる。アナピーたちにしてみれば自分たちの耳を疑うような言葉だったけど、その釣り人たちの雰囲気を気持ちよく感じられた。

「よ〜し、まずはミノーからだ」

「オレもミノーだよ。水面でチョコマカ動かして誘ってみる」

 2人の釣り人は、マイクロミノーと呼ばれる5cmほどのフローティングミノーを投げ込んできた。やっぱり釣りの楽しみ方を知っているのか、少しでもボクたちを飽きさせないように考えているのだろう。水面から徐々に潜らせながら、いろいろなルアーで遊んでくれるんだろうと、そのときアナピーは思った。

「アナッキー、きたよ。ヨシ、行こう!」

「りょーかい!突撃〜!」

 アナピーは仲間たちと一緒に、そこに落ちてきた2つのフローティングミノーに向かって泳ぎだした。最初は様子を見ながら、少しずつ近づいていった。釣り人は偏光のサングラスをかけているようで、水の中のボクたちの動きが見えるらしい。

「おっ、出てきた、出てきた。あっちこっちの岩の横から追って集まってきたよ」

「ホントだ。あ〜っ、こいつらひょうきんだなぁ。岩の上でルアーを見ながら、ヒョッコヒョッコ体の向きを変えてるよ。あっ、戻っていった」

「こっちもだよ。でもいつの間にかた〜くさん集まってるぞ」

「うん、すごいねぇ〜。ここってアナハゼの宝庫みたいだね」

「こんな場所、久々に出会えたよ。アナハゼたちに感謝しなきゃ。友達みたいに遊んでくれる印象を持てる魚って、そんなにいないよね」

「そうだね。オレもアナハゼ釣るのって大好きだよ。なんで専門に狙う人が少ないのかな」

「キャッチ&リリースって言われてるけど、結局は食べるのが目的で釣っている人が多いんだろうね。あとは強い引きを楽しむ人が多いのかな」

「でもさぁ、アナハゼって掛けるまでの楽しみは、他のターゲットにも負けてないと思うよ」

「オレもそう思う。楽しいから満足できるよ」

 アナピーたちはどんどん嬉しくなってきた。自分たちを友達みたいに感じてくれている釣り人に出会えたのだから。でも友達だったら、ルアーでハリに掛けるなよな・・・、とも思ったりもした。まあこの際だから細かいことは気にしないで、釣られても優しく逃がしてくれると信じよう。アナピーの合図で、アナハゼたちは一斉にルアーへ飛びかかり始めた。誰かがルアーを咥えそこなっても、次に近くにいたアナハゼが飛びかかるといった具合だ。アナハゼたちもお祭り騒ぎのように、どんどん気分を盛り上げていた。

「すっげ〜!どこにこんなたくさんのアナハゼがいたんだ?!」

「ホントだ。掛けそこなっても、どんどん他のがチェイスしてくるよ。楽しい!」

 まずはアナピーがミノーを咥えた。そして釣られていった。ちょっとだけ抵抗するふりをして、釣り人に楽しんでもらった。嫌がるふりをしてあげたほうが、釣り人が喜ぶのを知っていたからだ。メッキ君やカサゴ君たちもそうやって喜ばれていた。自分もそうするのがいいのだろうと、体が勝手に動いていた。釣り人もそれを感じ取ってくれたのか、「ここのアナハゼって引きを楽しませてくれるねぇ〜」と喜んでいる。

 次々と釣られては逃がされていく仲間たち。ボクも体に触れないよう、そっと水の中へ戻してもらえた。優しく扱ってくれているから、アナピーたちも満足している。さすがにお互いに疲れたのか、盛り上がりはちょっとばかりの落ち着きを取り戻した。釣り人たちも休憩しながら、今の盛り上がりを話題に喜んでいる。本当に楽しそうだ。しばらく休んでいると、今度は小さな透き通ったワームを準備している。今度はピラピラと動く楽しそうな動きのワームが飛び込んできた。ジグヘッドに付いているので、この浅い場所ではすぐに着低した。そしてチョンチョンと、海底を小さく飛び跳ねるエビのような動きを見せている。

「よ〜し、まだ釣られてないみんなぁ〜。続けて行ってきたらぁ〜?」

 アナピーの掛け声で、「それ〜!」と声を上げながら向かっていくアナハゼたち。ピョンピョンと元気よすぎて、なかなか思うように咥えられないようだ。そこでアナハゼたちは、動きすぎるワームにはただついていくだけにした。そして動きが小さくなったときに咥えるようにした。これが釣り人たちのいう、「喰わせの間」というやつだ。激しく動いてアピールさせて、動きの落ち着いた瞬間にタイミングを合わせて飛びかかる。これを知っている釣り人は、本当に魚をよく釣っている。

「いやぁ〜、さすがにこれだけ釣れると疲れるね」

「うん。疲れた〜。でも面白かったよ」

「あんまり痛い思いをさせたらかわいそうだから、これくらいでやめておこうか」

「そうだね。アナハゼ君たち〜、ありがとね」

「また来たときも遊んでくれよなぁ〜」

 2人の釣り人は、そう言葉を残して去っていった。アナピーたちもさすがに疲れた。とにかく友達になれそうな釣り人を楽しませてあげようと、本当に一生懸命になって盛り上がったのだから。ちょっと暴れすぎて横っ腹にハリが刺さっちゃった仲間もいたけれど、優しく外してもらえたから傷も小さくて済んだ。アナピーたちにとっても久し振り・・・、いや、初めての体験だった。最近は自分たちを雑に扱う釣り人ばかりだったから、こんなに楽しんでくれるなんて考えてもみなかった。「やっぱり釣りは楽しくなくっちゃね!」と、アナハゼのくせに思ってしまったアナピーなのでした。


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