●1999/10 那珂川のシーバス●

 ほとんど雨の降っていなかった梅雨の前半も終わり、今回の取材の頃には雨が続いていた。明るい時間帯にお日様が見えて居たかと思うと、夕マヅメには雨が降り出してしまう始末だった。この時期につきモノの雨は、ボク達の味方になってくれるのだろうか。
 そんなうっとおしい毎日に明け暮れていたある日、沖縄では早くも梅雨明け宣言がされていた。しかし、こちらは相変わらずの悪天候が続いていた。数日前よりフィッシング大洗店の雨海店長より、メールで茨城県・那珂川のシーバス情報を収集していたのだが、ここ数日の彼の釣果と言ったら恐ろしかった。まるで何かに憑かれたように、シーバスを短時間で何本も釣ってくるのだ。

 この情報を聞いてから、チャンスをうかがっていた。ところが、一向に天気は安定してくれない。天気図を見ていると、南の方ではかなりの大雨が降り始め、徐々に関東へ近づいてきていた。この雨が那珂川に降り注いでしまうと、おそらく好調なポイントが潰れてしまう可能性もある。せっかくの新鮮な情報も、雨によって腐ってしまっては価値が無くなってしまう。
 意を決して、雨海さんへ案内をお願いすることにした。いつ降ってくるかもしれない天気の中、2人は那珂川のポイントへと向かったのであった。近くのコンビニで待ち合わせて、2人が向かった場所は意外と変化の少ないポイントだ。

 ここは涸沼川の合流点よりかなり上流で、川自体は真っ直ぐでこれといった地形変化は少ない。しかし、何ヶ所かに小さな流れ込みを持っていて、その周辺にはいかにもベイトフィッシュの集まりそうなシャローが存在している。こういった大きな河川の場合、少しでも変化のある場所にシーバスが集中することもうなずける。
 彼の通っているポイントは決まった場所だけではなく、釣れたポイントの周辺も片っ端から試してみるというスタイルだ。従って、実績のあるポイント周辺を、自分でどんどん開拓してくれている。今年の那珂川に関して言えば、彼ほどシーバスのポイントと釣れ具合を知り尽くしている人がいるだろうか。

 さて、ボク達が釣り始めた頃は、予想通りに雨がぱらぱらと降り始めていた。空は完全に暗くないのだけど、時折ぱらついてくる雨が心配になってきた。しかし、ここまで来てしまった以上、多少の雨には構っていられない。
 ところが、予想に反して、かなり早い時間に大粒の雨が降り始めてしまった。いくらレインウエアを着込んでいるとはいえ、さすがに取材での雨はこたえる。雨海さんも何とか釣らせてくれようと、必死にポイントを変えながら詳しく説明をしてくれる。何とか彼の期待にこたえなければ、雨の中を引っ張り出してしまって申し訳ない。

 そんな事を考えながらルアーをピックアップした瞬間、水中から何かがロケットのように飛び出してきたのだ。次の瞬間、ボクのロッドにズシンと重みが加わった。
「雨海さん、ヒット! ピックアップした瞬間に、水面から飛び出してきたよ」
「良かったぁ! 釣れましたね」
「あっれぇ~? ナンカ引きが違うなぁ。頭をグイグイって振ってるよぉ〜。あっ、ナマズだぁ!」
「えっ、ナマズすかぁ!? あっ、デッカイなぁ〜!」
「えっ? このサイズって大きいんですかぁ? えっと、55cmですね」
 雨音しか聞こえない静寂を突き破って来たのは、髭の偉そうなナマズくんだった。リバーシーバスに付き物といえばそれまでだが、何となく釣れそうな気がしてきた。

 しばらくキャストをしていると、今度は明らかにシーバスのそれと分かるボイルが幾度となく同じ場所で起きている。ドライフライをプレゼンテーションするように頭にイメージして、そっとボイルリングの中央へ緒としてみた。
 すると、その瞬間に水面からガボッとシーバスが飛び出してきた。ロッドに重みを感じてから引き付けるようにアワセると、何度かのエラ洗いを見せてからアッサリと寄ってきてくれた。ところが雨海さんにギャフをお願いしたら、ナント打ち損なってシーバスが落ちてしまった。

 慌てた雨海さんは咄嗟に足を閉じて、足の間を逃げようとしたシーバスの首を押さえ込んでしまった。体制を整えるのにしばらく時間がかかったけど、無事にそのままハンドランディングすることができた。雨海さん、感謝、感謝です!
 当のシーバスは、突然の羽交い締めに会ってしまったため、ヒクヒクしている。不運なシーバスは、そのままお持ち帰りで雨海さんの胃袋へ入る羽目に…。後日談では、非常に美味なシーバスだったらしい。


戻る