暗闇の電気ウキ。。。



 それは伊豆半島を車で走りながら、釣れそうな釣り場を探していたときのこと。時間は夜中の2時頃で、道路を走る車はまったくと言っていいほどすれ違うことはなかった。数ケ所を釣ってから再び車を走らせていると、目当ての漁港が視界に入ってきた。薄暗い常夜灯が対岸にあったが、港口の堤防先端周辺は真っ暗だった。わずかな月明かりが辺りを照らしていて、何となく堤防上の障害物などが薄ぼんやりと見えていた。

 本命の対岸にある堤防先端へ釣り座を構えようと、車をそちらへと向けた。ところが車を近づけると先行者がいたのか、突然電気ウキの明かりがフワァ〜ッと飛んでいった。電気ウキの明かりは、堤防先端から港内へ向かって飛んでいった。あの位置にいると、一緒に釣りをするにはやりにくいと判断した。そして普段はあまりやらない手前の堤防に入ることにした。車を手前に止めて、タックルを持って手前側堤防の先端へと歩いていった。

 堤防先端へ近づくにつれて、月明かりに照らされている堤防上の様子が見えてきた。暗闇にも徐々に目が慣れてきて、対岸の堤防側が見えるようになってきた。堤防先端に到着して対岸をチェック、そして対岸からの仕掛けには引っかからないようにと思い、周辺を見渡して状況を確認してみた。ところがちょっと前に投げ込まれたはずの電気ウキは見えない。ちょうど沈んでいるか、それとも回収されて次のキャストを準備しているのかと思い、対岸の堤防上へと目を向けた。

 普通に考えたら、対岸の堤防上には釣りをしている人の姿が、月明かりの下でシルエットとなって見えるはず。しかし対岸の堤防上には、人影らしいものは何も見えなかった。電気ウキが投入されたタイミングから、1分も経ってない。堤防からアッという間に人が引き上げるとは考えにくい。堤防から対岸の駐車場の全てを見渡してみても、月明かりの下で見えるものは何もなかった。この時点で、既にいやぁ〜な予感が・・・。

 月明かりだけの堤防上に、自分1人だけがいる。そしてちょっと前まであったはずの電気ウキが消え、少なくともいるはずのエリアには誰もいない。気持ち悪くなって車へ戻ろうと、自分が歩いてきた堤防を振り返った。すると自分がたった今しがた歩いてきた堤防の港内側に、ボワァ〜ッと光る電気ウキが漂っていた。いくらなんでも対岸の電気ウキがこっちまで流れてくるはずがない。当然ながら、自分が歩いてきた途中に、仕掛けを投入している人など姿はなかった。

 気になって一瞬振り返り対岸を確認すると、やっぱりそこには誰もいない。再び自分が立っている堤防に目をやると、たった今まで浮かんでいた電気ウキが消えている。この時点で頭の中はパニックで、いったい何が起きているのかまったく分からなくなっていた。とりあえず自分が歩いてきた堤防には何の姿も見えないので、とにかく走って車まで戻った。車に入ってドアを閉め、落ち着いて状況を整理してみた。しかし見たものは紛れもない電気ウキ。そしてちょっと前には、それが仕掛けとして振り込まれている。そして消え、更に別の場所に現れた。そう言えば、最近はこの港で夜の釣りをしている人の姿を見かけない。夜釣りが禁止になっているわけでもないのに。ひょっとしたら事故で亡くなって、今でも釣りをしたくて電気ウキを投げ込んでいる何かがいるのだろうか・・・。


お帰りは こちら ですよぉ〜