1995年9月号 簡単、カンタン、KANTAN


 突然だけど本誌読者の皆さんはルアーに対してどの程度の知識を持っている
のかな。
 ルアーの泳ぎのメカニズム、ボディ形状の持っている意味、状況に応じたル
アーセレクトの考え方などハードからソフトまで色々とあるでしょ。でも今回
ボクが言いたいのはもっと簡単なこと…カンタンな…KANTANだとボクが
思っていたことなんですヨ。

 先日本誌の取材で狩野川河口へボラを狙いに行った時の出来事なんだけど、
ポイントは相変わらずの超人気でルアーマンでいっぱいだから暫く様子を見て
いようということになった。1時間程経っただろうか、その間にボラのヒット
は全くナシ。ルアーマンたちはポイントのワンドから徐々に横のテトラ周りへ
と移動していったんだ。何で釣れないのかなと思いながらもポイントが空いた
ので仲間とタックルセットして釣り始めることにした。
 ここは夜でも道路の街灯で水面をうっすらと照らしているから水面を泳ぐボ
ラの群れもよ〜く見える。
『見てごらん、あんなにた〜くさんいるのに何で釣れないのかナ〜?』
『エッ、どこにいるんですか?ぜ〜んぜん見えませんけど…』
 どうやら見慣れてない人には見にくいようだ。

 余談だけど、水の中の魚を見つけることは意外と経験がモノを言うようだ。
自分には見えるけど一緒にいる仲間には見えない、またはその逆の経験をした
ことがある人も多いんじゃないかな。
 ライトタックルはもちろん、オフショアでシイラを狙う場合でも魚を見つけ
る早さは釣果に大きな影響を及ぼすこともある。見えないよりは見えたほうが
いいと思うけどネ。見えそうで見えない…けど見えた時の快感、充実感は味
わった人でないとワッカンネ〜ダロ〜ナ〜。ちょっと前に流行っていた3Dな
んかも、見えた人にのみ分かる感激があったでしょ。これはちょっとしたコツ
と経験が全てなんだよね。視力の問題じゃないんだよネ。


 話は元に戻るけど、結局釣り始めてすぐにヒットの連発を楽しめたんだけ
ど、それがかえってボクを考えさせてくれる原因となってしまったんだ。何で
みんな釣れなかったんだろう?

 でも答えはすぐに分かった。釣り始めて簡単にヒットの連発で大騒ぎしてい
たものだから、さっきまでここで釣っていた子供たちが戻ってきてボクたちの
横で再び釣り始めたんだ。でもヒットしない。
 あんなにボラは水面にいるのにナンデ釣れないんだろう。アッ、そうか、
ひょっとして子供たちがキャストしているのはフローティングミノーじゃなく
てシンキングミノーなのかもしれない…。そう思ったボクは一番熱心にキャス
トを繰り返している子供に声をかけてみた。

『さっきからズ〜ットやってたみたいだけど釣れた?』
『全然ダメです。どうすれば釣れるんですか?』
 子供たちは聞きたかったけど声をかけにくかったようで、こちらから声をか
けたら他の子供も一斉に集まってきて突然質問の嵐になった。未来のスーパー
アングラーを育てるためにもボクたちはこういったチャンスを作ることも必要
なんだなとこの時強く感じたんだ。
『それフローテイングミノーかい?今ボラは水面のモノにしか興味を示してな
いからシンキングミノーだと無視されちゃうヨ』
『フローティングってナニ?シンキングって?』
 そうか、始めたばかりで全く知らないで来てるんだナ。そう思ったボクは簡
単に説明してから子供のタックルボックスを見て、ここのボラに適したルアー
を選んであげることにした。でもタックルボックスを見てビックリ。ナント20
〜30本のミノーが入っていたんだ。

『これとこれがフローティングだから使ってごらん』
『なんでフローティングって見ただけで分かるの?こっちのだって軽いからフ
ローティングじゃないの?』『ルアーにFとかSとか書いてあるだろ。普通は
ルアーのメーカーがフローティングはF、シンキングはSって書いているんだ
よ。このSPはサスペンドのことで、引くと沈んで引くのをやめるとその水深
で止まっているんだよ。但し、海と川では違うけどネ。分かるだろ。重いから
沈むとか軽いから浮くっていうのは間違いだよ』
『ウン!』
 結局フローティングミノーを使って一番真剣にキャストを繰り返していた子
供が立派な50cm級のボラをランディングした。この時の嬉しそうな笑顔は今で
も忘れない。アー、釣りをやってて良かったなァ〜。

 みんなはどう思う?メーカーのルアーパッケージやカタログ、ショップでの
説明や釣り雑誌などでは本当の意味での初心者にはこんな基本的なことまでう
まく伝わってないんだよ。世の中には専門誌が氾濫してカルト的になる傾向を
感じているのはボクだけなのかな。本当はもっと底辺をしっかり足固めしてい
かないといけないんじゃないのかなァ。
 メーカーさんを含め、ショップやベテランルアーマン、各誌に執筆されてい
る方々もこの辺りを見直さないと。確かに専門用語を使ってズラズラ書いたり
しゃべったりすればカッコイイと思うけど、どれくらいの人が100%理解し
ているのか疑問だヨ。

 ボクもこれを忘れずに分かりやすい表現をしていきたいと思う。でもホント
はこれって物凄く難しいことだよね。何事もそうだと思うけど、知っている人
から見れば相手がどこまで分かってくれたかなんてそれこそ分からないモン
ネ。やっぱり大切なのはお互いのコミュニケーションだよ。
 ボクの仲間たちには海のライトタックルをこよなく愛し、お手軽、お気楽、
チャランポランに海のルアーフィッシングを楽しんでいるヤツラが多い。
フィールドでもしょっちゅうバカ騒ぎをしながら遊んでるから見掛けたら遠慮
しないで声をかけてネ。意外な発見があるかもしれないよ!