1996年3月号 ボクがルアーを自作する本当の理由


 今回はちょっと真面目な話。今号の特集で冬に始めるルアーメイキングとい
うテーマがあるが、皆さんは何をお感じになっただろう。今回の趣旨は、『部
屋にこもりがちなこの季節、春に備えての準備で比較的簡単なルアーの作り方
やチューニングの方法を紹介したい』ということであった。
 実際に自分自身の手でルアーをチューニングしたり作ったりすること自体は
ボクも大賛成だ。でも、チューニングはともかく作ることに関しては何か
ちょっと違うぞ?と感じたのはボクだけじゃないと思う。まず何のために自分
でルアーを作る必要があるのかを考えてもらいたい。

 よく耳にする話は、お金が無いから自分で作るとか、自分の気に入ったル
アーが市販されてないからとかの意見が多い。
 確かにルアーは購入の際に掛かるイニシャルコストは高い。しかし、作り始
めたらそれなりの道具やマテリアルが必要なことが良く分かってくる。やれエ
アブラシが必要だとかやれエアコンプレッサーが必要だとか、挙げ句の果てに
は塗装をしたらシンナーの匂いがプンプンするから排気ファンをつけたりとお
金が予想外にかさむ。
 最近のルアーは高精度のものが多いので、結局は市販品を買ったほうが安上
がりという事に気が付くだろう。フライを巻くのに比べたってとんでもなく製
作時間が掛かる。

 じゃあ自分自身で納得できるルアーが欲しい人だけが作ればいいのかと言う
とそうでもない。世間で思っているほどルアー作りというのは簡単なモノじゃ
あないんだヨ!
 素人が作って簡単に思い通りの泳ぎをするルアーが作れるならルアーメー
カーは困ってしまう。でも実際に作ってみるとよほどデタラメな事をやらない
限り、大抵のルアーはちゃんと泳いでくれるし魚も釣れるのは間違いない。使
い方さえ間違えなければネ。

 実はここに気付くことが大切なんだ。お金とかお気に入りとかの問題も確か
にあるけど、ホントは自分のルアーフィッシングに対するテクニックを向上さ
せるために必要な事なんだとボクは常々思っている。
 ルアーをみんなに作って欲しいことに違いはないけど、出来ることならどん
なルアーが自分の行くフィールドのターゲットに有効なのかを考えてみて欲し
い。
 特にミノープラグに関しては最近樹脂による大量生産でコストを下げて重心
移動などにより遠投は出来るようになったが、バルサ材や発泡樹脂を使った浮
力のあるフローティングミノーの必要性をフィールドで感じることもある。コ
スト競争のなかで大量生産が出来なくなり生産を中止したルアーもある。
 必ずしも飛距離が優先のフィールドばかりではないので、本来ルアーに求め
られているモノをそろそろ見つめ直していってもいいのではないだろうか。
 ちょっと話はそれたけど、要するに自分の使いたい目的でルアーをセレクト
し、刻々と変化するフィールドの状況に合わせて対応出来るテクニックを身に
付けるのにルアーメイキングとチューニングは好都合だというように考えて頂
きたいのだ。

 お金がないとか気にいったモノが無いといった考えで始めても構わないのだ
が、出来ることならルアー自身の持っている素質をいかにして引き出せるのか
を覚えるための手段として考えていった方が、皆さん自身のフィールドテク
ニックの向上につながることは間違いないと思う。
 話は変わるけど、例えばフィールドに出てお気に入りのルアーをキャスト
し、頭に描いたラインをトレースさせる。こんな時、ミノーが横を向いて泳い
できたらどうします。最近の大量生産のミノーに確実なアイ調整をしている
メーカーは少ないですヨ。アイ調整などで泳ぎを調整して出荷しているメー
カーは非常に偉いとボクは思います。

 では、未調整のルアーだったらどうだろう。現状ではまだまだこれは真っ直
ぐ泳がない不良品だと言う人が多いのが実情だろう。でも簡単なアイ調整の方
法さえ覚えておけば、安いルアーを自分の好きな動きやカラーにモディファイ
して使うことだって出来るんだヨ。
 ウォブリングを大きくしたり、あまり深く潜らないようにしたり、逆に狙い
にくいポイントをタイトにトレースさせたい時などは、アイを意図的に曲げて
リトリーブしながらストラクチャーに近付けていく方法だって考えられるん
だ。
 これからは市販のルアーはひとつの完成された姿であって、自分自身が自分
の経験で確かめて、ルアーに自由な発想という名のオプションを装着していく
という考え方も成り立っていくのかもしれないネ。
 ルアーメーカーには完成された姿のルアーも必要だけど、ある程度の上級者
向けにチューニング幅の広いルアーなんかがラインナップにあっても面白いか
もしれない。


 まあ今回はたまたまキッカケがあったからフローティングミノーに関してご
く一部の簡単な事だけを書いてみたけど、みんなも知っているようにジグやス
プーンなど様々なルアーが存在する。これらのルアーにも多かれ少なかれル
アー開発担当者の思い入れがあり、設計思想というものがある。
 もっと簡単に言ってしまえば、どんな状況の時にこのルアーで釣ろうと考え
たのか、そしてどんなアプローチでターゲットをヒットまで持ち込むのかを十
分に考えたうえで作られていると思って間違いない。
 そして忘れてならないのが、どんなメーカーでも魚を釣ることを前提に考え
ているので、開発者の設計思想さえボクたちルアーマンが理解できれば釣れる
という事実なのだ。

 とかくルアーの世界にはブランドイメージが強くつきまとっているけど、そ
んなものは魚から見れば関係ない。魚にとってホントに魅力のあるルアーを
作っているメーカーはいっぱいある。
 だって彼女をつくりたいと思ったら人任せにしないで自分で考えて行動する
でしょ。他人から言われてその通りにして失敗したらだれが責任とるの。まず
は彼女(魚とルアーの設計思想)を知る(ルアーメイキング)ことから頑張る
のはルアーだって同じことだと思うけど…。