ボクのアイルメタルとの出会いは、ひょんなことから始まった。フォールで水平姿勢を保ち、テンションフォールでスイミングをしてくれるもの。当時はカツオやメジをキャスティングで狙うことに凝っていて、そんなジグの必要性を強く感じていたころだった。
開発担当の方と色々なパターンを考えながら、理想的な形状を考えていった。そしてとにかく釣れるメタルジグというのが、フィールドでそれを試すボクの命題でもあったんだ。
何度も何度もテストを繰り返し、微妙な形状の修正を繰り返した。そしてできあがったメタルジグが、当時のアイルメタル初期モデル・・・ではなかった。正直なところ、このメタルジグはとてもよく釣れて、仲間内でも反則技でズルイとまで言われていたものだった。
このメタルジグでは、その当時にあまりなかったカラーも試されていた。金オレンジは、メタルジグとしては珍しく、ピンクに黄色のマジックを塗ることで、それに近いカラーリングを施して釣ることもあったんだ。
それなのに、このメタルジグは公に日の目を見ることがなかった。これほどまで釣れたのに、何故?って思うのが普通の人の感覚だよね。僕もその時は、とっても強くそう思っていた。だけどメーカーさんは、それにゴーを出すことはなかった。
たしかに釣れたんだけど、メタルジグが市場に氾濫を始めた時期でもあり、何か強烈なインパクトがないと売れないと思われていた。そんな中で、魚は釣れるけど、それだけではアングラーが釣れないのではないかというのが、当時のメーカー担当者さん(・・・の上の方)の意見だったらしい。
ここまでやって、周囲の誰もが市販化を信じ切っていた。だけど途中で大幅な軌道修正がかけられて、インパクトという面で、初期のアイルメタル(表が魚で裏がイカ)のフォルムが決まってしまった。
もちろんこの形状変更が決まってからは、同じように釣果を出すことができるというのが絶対条件。しかしそう簡単にうまくいくはずもなく、あまりにも突拍子もないフォルムによって、何度も作りなおしてはトライ&エラーの繰り返しだったことを思い出す。
形状が煮詰まってあと少しという頃になると、このアイルメタルでもここまでできたという達成感もあり、最終的なゴーサインを出すにいたった。あまりにも遠回りで、必要以上の苦労を感じてしまったルアーだという思い出が強い。それだけに思い入れがある、自信のメタルジグでもあった。
それでもボク個人的には、最初に仕上がったメタルジグのことが忘れられず、相変わらずプライベートの釣りでは使い続けていた。もちろん少数しか作れない型ではあったけれど、当時の開発直接の担当者はボクの思いを理解してくれていたのが嬉しかった。
型が続く限り、それを使ってボクの遊びに付き合ってくれた。こんなことを話しちゃっていいのかな?って気もするけれど、それが今につながってるってことで勘弁してもらおう(^^;
この日の目を見ることがなかった本当のアイルメタルは、いつしかメーカーさんの開発担当間では「ノジグ」と呼ばれるようになっていたらしい。もちろんボクは当時そんなことを知る由もなく、ずいぶんと後になってから聞かされたことだ。嬉しいやら恥ずかしいやら、そして市販化されなかったことが悲しいやら・・・。
ところが今になってみれば、その頃のメタルジグに対する考え方が、現在も販売されているアイルメタルTBに受け継がれている。水平フォールはもちろんのこと、テールの動き方などもかなり似て仕上がってきていた。
形状は当時のものと異なるけれど、コンセプトが最終的に形となって市販化されたことによって、ちょっとだけ救われたかなって思ってもいる。ホントはその時に市販化へ踏み切ってくれていれば、もっと展開は違っていたのかもしれない。
でもね、やっぱり「ノジグ」の基本的な考え方が生きていることは、他の開発者やTBのテストをしてくださった皆さんとも、同じ方向性だったことは喜んでいいんじゃないかと思っている。
ロングセラーとして市場に出ているアイルメタルTB(とくに28gのバランスが大のお気に入り)は、本当に釣れるメタルジグだと思う。今はあの頃よりも、本物を見分ける目を持つアングラーが増えている。現行のTBは、そんなアングラーに使ってもらえると嬉しい。